18になったら時給1000円以下で働くな

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始めに断っておくがこの文章は,今の自分のバイトに不満ばっかりTwitterで垂れ流している人向けの物であって,自分のバイトが好きで取り組んでいる人には何も言うことはない.額面のことなど二の次で,自分の好きなことを楽しく仕事にできることほど素敵なことはない.

 

そもそも僕は学生(ここでは18歳以上,大学1年相当の学年以上の学生を示す)は賃金を目的とした労働をするべきではないと思っている.この持論を納得してもらうためにまず「学生」という特権について説明する必要がある.

 

多くの学生は自分たちの価値を知らない

この国では何歳であろうと学生であれば「労働」「年金の支払い」といったあらゆる国民の義務が免除される.それは将来的に社会に貢献できる人物の育成のため,学生が学問を修め見聞を広め,自己研鑽することに集中させるため他ならない.

 

義務の免除だけではない.世の中の学割という制度も,そもそもは学生たちの修学活動や文化・芸術に関わる機会を促進するためのものだし,インターンシップという制度は「企業内部にアクセスする」という本来外部の人間には決して認められないはずの行為を学生に許している.

 

(学費無償化や奨学金の議論はさておき,)このように世の中は,学生が社会人に比べて自由な活動が行いやすいようにできている.学生証というフリーパスを振りかざしてあちこちに足を運び見聞を広め,人脈を作る.そうやって学生の特権を活用すればするほど,自分が社会に出た時に,より多くの武器をその手に持つことができる.

 

しかし多くの学生は放課後の時間を特権の行使ではなく,飲食店で酔っぱらいの相手をしたり,スマートフォンゲームで終わりのないレベル上げをしたり,タピオカの写真をInstagramに投げるために加工したりするのに使っている.自分たちの価値に気づくことなく20歳をすぎ,就活を始め,企業に散々選り好みされた上で社会の歯車になっていく.

 

実にもったいない.学生は(無理やり)ポケモンで言うとイーブイだ.一昔前の高度経済成長期にはなかなか職業のバリュエーションは選べず,カントー地方でブースターかサンダース,シャワーズになるしかなかったかもしれない.しかしITの発展が進み国全体で地方創生が叫ばれる今,ジョウト地方シンオウ地方カロス地方ブラッキーやグレイシア,ニンフィアに進化できる可能性が広がってきている.仕事の種類はサラリーマンだけではないし,進化の方法は石を持っていることだけではなくなってきているのだ.

 

まず自分の潜在的な価値を知ってもらうことが重要だ.隣で頑張っている友達を「意識高い奴は違うなぁ」と見ているだけでなく,自分にも可能性があるという当事者意識をもってほしい.僕たちは暑い中スーツを着て就活したりしなくても,生活でちょっと工夫をして何らかの強みを身につければ,いくつもの企業に欲しがってもらえるほどに価値があるのだ.

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自分たちの価値を損ねない働き方をする

もちろん特権の行使にしたって,学生が自分たちの生活の中において,勉強漬けになるのか,映画館や美術館で感性を磨くのか,仲間といたる所に足を運ぶのかといった具合に,何にどれほどのウェイトで割り振るのかということは自由で人それぞれである.家庭環境の違いもあるだろうし,学生生活を営む上でお金が必要でそのためにバイトを始めるというのは当然の理屈である.

 

そこでおすすめできるちょっとの工夫というのが「時給1000円以下では働かないと決めること」だ.僕は今年になってから(研究室関連のお手伝いを除いて)全ての働き口の時給を2000円以上に引き上げた.時給換算すると4000円以上もらっている案件もある.ただ,こうして時給を上げてぼろ儲けしましょう!などと言ってるのではない.1000という数字は一例に過ぎないのだが,このように時給の下限を設定することで2つのメリットが得られる.

 

1.働く時間を減らせる

一般的なバイトの最大のネックは時間がかかること,自明である.時給を上げることでシンプルに必要なお金を稼ぐのにかかる時間を短くすることができる.僕が1年前まで放課後にラーメン屋で夜まで働いて得られた賃金は,今僕が夕飯の買い出しついでに小学生たちにWordの使い方を1時間教えて得られる賃金と同額なのだ.

 

NewsPicks(https://newspicks.com/news/3866391/body/)に興味深い議論が掲載されていた.僕は田原総一朗は嫌いだし,この議論は社会全体を対象としているのであまり学生の内から気にする必要のある内容ではないが,労働生産性というキーワードは今回のテーマに直結している.

 

落合陽一
働けば働くほど、お金が増えると思ってる人たちがいる。労働生産性が低いのに、一日中働いている人が多すぎるんですよ。労働生産性が低いから、休みを増やして最低賃金上げるというのは、めっちゃ賛成。そのくらいの余裕感が必要。 引用: https://newspicks.com/news/3866391/body/

 

学生と社会人では,お金を稼ぐ目的が少々異なってくる場合もあるが,自由に使える時間に対する価値は共通である.学生の特権を行使していくためには,時間がいくらかかってもいいから稼がなきゃいけないという考え方をしてはいけない.

 

2.自分の価値を再確認する

古くからの資本主義の考え方では,「報酬」は1人の人間の単なる時間に対する対価であった.これは,産業革命の起こりと共に資本主義が広がりを見せた18世紀から19世紀にかけて,一般的な労働者階級の働き口が工場であったことに起因すると考えられる.ライン上でマニュアル通りの仕事をすることで賃金を得る.つまり雇う側からすれば,手早くマニュアル通りの仕事ができれば誰でもよかったのである.そこに個人間の賃金差がうまれるわけがない.

 

時は流れて21世紀.インターネット技術の発展によって最近はリモートワークやテレビ会議なんかがどの会社でも用いられるようになり,どこにいてもノートPC1台で仕事ができるようになった.200年前に労働者たちに求められていたような仕事はもはやそのほとんどをAIが代わりにやってのける.そんな世の中で社会が学生たちに求める力というと「言われたことを言われたとおりにする力」ではなく,「自分の得意を活かした課題発見およびその解決力」だ(まぁ業種によって様々だし色んな言い方があるだろうが,少なくとも個性のない働き方が求められるということはないだろう).

 

これからの仕事は「マニュアルが読める誰か」ではなく「○○が得意なあなた」に任されてゆく.となると,その労働に対する対価もこれまで通りの定義ではつじつまが合わない.報酬は「1人の人間の単なる時間」に対して支払われるのではなく「その1人1人の労働者そのものの価値」に対して支払われるべきであり,世の中も少しずつそのように変わってきている.

 

www.nikkei.com

 

今最もその動きが過熱しているのはIT業界だ.上のURLは中国のHUAWEIが新卒のAI人材に対して最大およそ3000万円の年俸を支払うことを発表した記事だ.会社へのこれまでの貢献度だとか何時間働いたかではなく,どれだけの技量を持つ学生を自社で使うか,という実力主義での決定である.実はこの動向に関して言うと日本は世界に比べて遅れをとっていることが知られているが,そう遠くない未来に国内でもデファクトスタンダードとなっていくだろう.

 

当然,学生の価値はこのようにITへの造詣だけで決まるものではない.それは短期留学で習得した英語力かもしれないし,本を読んで得た膨大な知識力かもしれないし,実践によって積み重ねてきたファシリテーションやプレゼンで活かされる力かもしれない.これまで磨いてきた何らかの得意やスキルが,学生いや労働者の見られるべき価値だ.

 

あれ,別の現場では自分がもっと必要とされてることがあるのに,なんでこんな安い時給で下働きしてるんだ…?僕がそう思ったのが1年前.今は2000円という(自己)最低賃金を設定して,その対価に見合ったクオリティの仕事をするようにしている.これがまた自信を生み,能力向上につながり,好循環を作り出していく.(自己)最低賃金を設定することで自分の自由に使える時間の価値を再認識し,それを損ねない働き方をしよう.

 

さいご

改めて断っておくが,行動選択は目的ドリブンで行われるべきなので,安い仕事は一切するなと言ってるのではない.仮に時給の安い仕事でも,社会に出る前に学べることや出会える人は多く存在すると思う.本記事の主張はあくまでもバイトに目的を見出せない人向けのものである.

 

バイトに限らず社会人の働き方にも共通する部分が多いはずだと考えているが,僕には社会人経験はないのでその議論はまだしない.無論僕にも見えていない視点は多くあると思うので,そのような指摘や議論は継続的に募っていきたい.

 

僕は世の中の学生たちが各々の時間をその価値に見合った使い方をすれば,国の仕組みを変えるくらいの力が生まれると思っている.良い環境を与えられないことにただ喚くのではなく,与えられた環境下で適応し振る舞い,ゆくゆくはその環境を変えていく力を身につける訓練を一緒にしていこう.