高専生から視た「経済」と「経営」の違い

【前置き】

4月も暮れとなり、新年度のソワソワした雰囲気も薄れつつある。僕達の研究室でも5年生の後輩達が自分たちのおおよその研究テーマについて決定し、指導教員や進路担当の教員と彼らの受験の手続きや就職の話が聞こえてくるようになった。進路といえば、僕は一年前にはすでに専攻科の推薦入試の準備を進めていたが、さらにその半年前はと言うと実は全く異なる進路を選択するつもりでいたことを思い出した。その進路というのが関東にある某国立大学、経済学部への編入である。

 

小学生の頃から社会科目は好きで、暗記も得意なので中学の成績なんかも地理から公民にわたってずば抜けてよかった。なのに高専に来た。幸い、情報工学という分野は他の学科とは大きく異なり、物理や化学といった"理科"的な要素は少なく、「情報リテラシ」や「IT活用」「情報システム戦略」といった"社会"的な要素を多く含んでいたため、特段嫌気が差すということもなく分野に対してある程度の理解を習得して無事に卒業を迎えることが出来た(奈良高専情報工学科についてはまたいずれ別記事で言及したい)。それでもやはり僕は3年次などで受けた「政治経済」「歴史Ⅱ」などが最もよい成績で、この自分の得意不得意から、卒業後に文転することを前向きに検討していたのである。

 

さて、前置きが長くなった。社会系学部としてよく挙げられるのは「経済学部」「経営学」「政治学部」「法学部」だろう。僕は「政治」「法」の両分野に関しては専門性が強すぎるため編入先としては不適切として当初より候補から外していた。

 

では「経済」と「経営」。選択に際してはこの両分野が具体的にどう違うのかということを把握する必要がある。自分も専門ではないので内容に関して深入りすることはできないが、進路選択の際に有効となるであろう特徴についてまとめる。僕の専攻科進学という進路選択の経緯について詳しく触れることはしないが、その間に理解した「経済」と「経営」の違いに僕が大きな影響を与えられたことは間違いない。

 

自分の専攻科卒業後のヒントにするために書き留めておくことがこの記事の執筆の目的である。ただ、高専には僕が見てきた限り、政治や歴史はともかくとして「経済」に興味を持っている学生は決して少なくない高専に入ってきておいてエンジニアにはなりたくないという不届きな後輩たちの参考に、もしくは進路を考え出すきっかけになれば幸いである。

 

経済学とは】

経済学という学問がどんなものか知るのに非常にお勧めできる本がある。「大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる」は、名前の通り一般の経済学部の大学生が4年間で学ぶ経済学の概要を簡単に学ぶことができる。

大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる

大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる

 

この本では経済学には大きく分けて「ミクロ経済学」「マクロ経済学」の二つの括りがあるとされている。簡単に説明すると、ミクロ経済学では、社会を構成する内の一つの個体の経済活動に焦点をおいている。例えば、とある企業が需要Dの製品Aを価格Pで売り出せばいくらの利潤が出る、といったこのような問題を微分積分学を用いて解決する。この個体は企業かもしれないし家計かもしれない。一方マクロ経済学では企業、家計などの個体を固体として認識することなく、社会全体の経済の動きを統計学などを用いて分析、それに対応した新たな経済モデルの提案などを行う。

 

いずれにしても微積や統計といったコテコテの数学を用いて社会経済が動くシステムを扱うのが経済学であるということが言える。経済学が「文系の理系」などと揶揄されるのはこの所以である。数学が好きな人は「経済学の計算問題がスラスラ解ける「3時間でわかる微分」を読むと経済学への関心を高めることができるだろう。

経済学の計算問題がスラスラ解ける「3時間でわかる微分」

経済学の計算問題がスラスラ解ける「3時間でわかる微分」

 

 この著者の石川秀樹という人は経済学の教育業界では権威とも呼べる人物で、非常にわかりやすい参考書を何遍も執筆していらっしゃる。この本は数ある著書の中でも特に経済学で扱う数学について言及しており、数学嫌いの僕でも(本当に3時間で)内容を理解することができた。

 

経営学とは】

経営学では社会を構成する内の「組織経営学では企業のみならず自治体、NPO法人なども対象としている)の運営」について学ぶ。もちろんマネジメントの技術なども含めて、教科書を読んでガリガリ勉強する内容がほとんどではあるが、最終的にはそれらの技術を応用して、実際の企業が運用している経営手法などについて自らが習得する必要がある。

アメーバ経営 (日経ビジネス人文庫)

アメーバ経営 (日経ビジネス人文庫)

 

例えば実業家・稲森和夫が「京セラフィロソフィ」内で提唱した「アメーバ経営」は革新とも呼べる経営術の一つだ。従来、企業は社長をトップとした取締役会から各事業部、各部署といった具合にトップダウンで指示が降り、社内の全ての金銭及び社員の管理が一括して行なわれる。しかしアメーバ経営では末端の部署の一つ一つが個別で活動する大きな権限を与えられており、金銭の管理も部署内で収支採算をとる仕組みとなっている。それぞれの部署がまるでアメーバのように個別活動を行なっていることからアメーバ経営と呼ばれるこの手法は、現在も(僕がインターンシップでお世話になった)京セラ株式会社様などで運用されている。

 

中経出版の「〇〇が10時間でざっと学べる」シリーズは非常に優れた学習本である。しかし経営学に関してはこの類の本を読んで、星の数ほどある経営手法から自分の興味をかき立てるものを探すのは難しいかもしれない。高専の学生が経営に興味を持つきっかけとして「「仕事のゲーム化」でやる気モードに変える」を紹介する。

「仕事のゲーム化」でやる気モードに変える 経営に活かすゲーミフィケーションの考え方と実践事例

「仕事のゲーム化」でやる気モードに変える 経営に活かすゲーミフィケーションの考え方と実践事例

 

本書は今話題の,「仕事をゲーム化」するという「ゲーミフィケーション」を扱った経営術についてわかりやすく説明している.実際にこの本は高専専攻科の授業でも取り扱われており「人はなぜゲームにハマるのか」といった身近なテーマから経営術へのアプローチを行なっている.ぜひチェックしてみてほしい.

 

【結論】

ここまで論じてきてなんだが,実は高専卒業後の編入先として経営学部」への門戸は開かれていないのが一般である.その理由はこれまでの文章を読んでもらえたならおわかりいただけると思う.経済学では数学というツールを用いて社会を分析し,経営学では人と金の動きを把握して組織を運営する手法を習得する.このようにして特に進路選択を行う立場の視点では「経済」と「経営」は似て全く非なる学問であることが言える.

 

余談だがこれらに準ずる学部として「商学部」「経済経営学部」なるものが世の中に存在する.これは商学部に通う友人の話であるが

「経済系,経営系の科目があるが自分は数学が苦手なので経済系の科目をとらないようにしている」

 というパターンがあるようだ.普通高校の3年生が将来自分が何をしたいか決めかねていてこういった学部の選択を行うのは十分に有意義であると思うが,自分のしたいことを掲げて文転を決意した高専生の編入先としては少々物足りないような印象を受ける.

 

以上が高専生から視た「経済」と「経営」の違いとなる.興味を持ってもらえた人はぜひ紹介したもの以外の文献にも目を通し知見を広め,議論に参加してほしい.文章や説明に不足があればまた追記するなどして,本来の記事の目的が果たせるようにしたい.